“いつだったか、ファイティング原田をテーマにしたノンフィクションが出た、というのはどこかで目にしていたんですが、読みたいなぁと思いつつ失念してまして、文庫化して尚且つ本屋大賞を受賞されるまですっかり忘れてました。 百田尚樹先生と言えば映画化が予定されている「永遠の0」の作者として今話題の人物だと思います。 私も零戦物は多々読んでおり、幼少の頃は「零戦燃ゆ」を見に行きましたし、原作も通読してます。 ちなみに連載時の挿絵を纏めた画集も持ってますw プラモも結構作ってたりするので、同映画を楽しみにしてる1人ですw なので、あぁ、この人が書いてたのか、と期待して読んでみたら…これが存外に面白いw まぁ、面白さが伝わるかどうかは私の力量に掛かっているのでアレですが、熱い時代のボクシングに対する筆者の熱い思いがひしひしと伝わる名作だと思います。 本書は戦後の日本ボクシング前夜から始め、…これは本文中何度も繰り返されるんですが、現在より圧倒的に困難であった世界戦をメインとして展開されます。 以前紹介した1952年のボクシング本「ボクシング・テキスト」にも出版社の拳闘社のスローガンとして「世界選手権を日本人の手に!!」とありましたが、これは白井義男戴冠前でもあり、本当に切実だったんでしょう。 日本ボクシング界にとって、世界に挑戦出来るだけでも大変な事であり、ましてや世界王者になるというのは、夢のまた夢だったと、そんな時代の話です。 現在は複数のボクシング団体がありますが、ファイティング原田の時代は1団体で現在より圧倒的に少ない階級しかありませんでした。 どれだけ才能があろうと運が無ければ、そして誰か1人でも自分より強い人間がいれば王者になれない―そんな時代だった訳です。 例えば筆者はこの世界チャンピオンの価値についてこう書いています。 —————————————————— この本を読んで下さっている若い読者に繰り返して言いたいのだが、昔の世界チャンピオンと現在の世界チャンピオンの価値は等価ではない。 当時、世界チャンピオンは八階級に八人しかいなかった。 世界でたったの八人である。 現在は十七階級、しかも複数の団体がそれぞれチャンピオンを認定していて、主要四団体だけでも七十人前後のチャンピオンがいる。 中には複数の団体に認められた統一チャンピオンもいるが、一方で暫定チャンピオンがいたりして、正式には何人の世界チャンピオンがいるのか、相当なマニアでもすぐには答えられない状態だ。 つまり昭和三十年代の世界チャンピオンの価値は現在の八倍以上の価値がある。 乱暴な言い方を敢えてするが、昭和三十年代の世界ランク七位以内のボクサーなら、今なら全員世界チャンピオンになれるということだ。 逆に言えば、現在の世界チャンピオンの八人のうち七人は当時なら世界ランカーどまりということになる。
—————————————————— この後も複数階級制覇に価値があったのは昔だ、と続くのですが、確かにその通りだと今更ながらに痛感しますね。 この辺りは実は極真にも言える事でしょう。 本当に強いのは誰だったのか、今となっては詮無き話ですが。 この時代のボクシングの世界チャンピオンは本当に価値があった、そしてファイティング原田は本当に凄かったんだ、という事を再確認させる1冊です。 そして話は原田の最初のタイトル、世界フライ級チャンピオン戴冠後から、この過酷な時代に8年間無敗を誇った「黄金のバンタム」エデル・ジョフレとの試合について描かれます。 私は知らなかったんですが、この「黄金のバンタム」、今ではバンタム級全体を指す言葉として使われてたりするんですね。 昔の「ゴング格闘技」読者である私からするとジョフレを指す言葉というのは常識だったのですがw エデル・ジョフレは…そうですね、マンガだと、「あしたのジョー」のホセ・メンドーサ、そして「はじめの一歩」のリカルド・マルチネスのモデルであろう人物がジョフレです。 マンガの中での取り扱いを思い浮かべて貰えればどれだけ強い相手だったのか想像付くかと。 1965年5月18日、名古屋で行われた世界バンタム級タイトルマッチ、エデル・ジョフレ対ファイティング原田の15回戦は、原田圧倒的不利の予想の中でゴングが鳴りました。 というか、恐らく身内以外で勝ちを予想した人間はいなかったんじゃないでしょうか。 4ラウンドまでまさかの原田攻勢で進む中、5ラウンドのジョフレの反撃により悲壮な雰囲気に陥る場内、しかし原田はこれを凌ぎそして盛り返し、15ラウンドを終え、2-1で原田の判定勝ち、2階級制覇となります。 この事は広く世界でも報道され、”Up set”(番狂わせ)と海外で報道しているケースもありました。 その後、1969年の最悪のホームタウンデシジョンだった豪州のジョニー・ファメンションとの対戦を経て、翌年のリターンマッチ後、原田はグラブを壁に掛け、10年間の激闘に幕を下ろします。 日本を熱狂させた男の、闘いの終焉でした。 引退後も原田は世界最高のボクサーの1人として数々の賞讃を受けます。 日本人ボクサーからはただ1人、国際ボクシングの殿堂に選ばれており、世界中の尊敬を受けるボクサーとなりました。 知らない方には「こんな凄い日本人がいたんだ」と、そしてご存じの方は最高のボクサーの軌跡を、本書を通じて今一度振り返ってみるのをオススメします”
— 【レビュー】百田尚樹著「「黄金のバンタム」を破った男」(2012年) | 拳の眼 (via petapeta)